911は相変わらず北米市場での人気は高かったものの、顧客数の増大は新たな要求を生み、それに応えるためにはアップデートが必要な時期に来ていました。さらにその後継車は911シリーズのイメージを継承する必要があり、外観を大きく変えることが許されなかったため、1980年にデビューした964型は、930型のデザインを踏襲した外観をまとってはいるものの、80%ものパーツを新製するといった手の込んだ手法を採した。その結果、カレラボディの空気抗力係数Cd=0.32は当時としては優れた空力特性であり、空冷エンジン搭載の911シリーズでは最も低い値となっています。
エンジンは内径φ100mm×行程76.4mmで3600ccに拡大され、圧縮比11.3でツインプラグ化され250馬力/6100rpm、31.6kgm/4800rpm。4WDに対応するためフロアセンターは高くなっているが巧みなボディワークにより見た目は分からない様になっている。リアスポイラーは電動格納式。ボディータイプは当初よりクーペ、タルガ、カブリオレの3種が提供されました。特筆される変更点は、パワーステアリング及びABSの搭載、サスペンションをトーションバースプリングからコイルスプリングに変えたことである。これによりリバウンドでのセット荷重が負荷できるようになり、現代的なハンドリングを得ることに成功しました。
964は最後のセミトレーリング式リヤサスペンションとRRの組み合わせとなった。セミトレーリング式では対地キャンバーが崩れて接地限界は993以降のマルチリンク式に劣る。一方で対地キャンバーが一定の割合で崩れていくので運転手がタイヤの接地情報を得られやすい美点もある。実験部門がリヤサスペンション取り付け部を重点的にボディをチューニングすることで、創業時の356から伝統的に運転手を熱狂させてきた、独特のトラクション感を体験できる最後のポルシェがタイプ964である。
1992年に大きなマイナーチェンジを実施。サイドミラーがエアロタイプのミラー(通称「ターボミラー」)に変更され、ホイールもディッシュタイプのデザインから5本スポークのカップデザインホイールなどに変更された。ボディータイプとして1992年モデルからカブリオレターボルックが追加され、1993年にスピードスターが追加されました。
2010年代に入り世界経済が上向くと、投機の対象として964の取引相場が異様な高騰をみせるようになった。それまで素のカレラ2で1万ドル程度だった相場が10万ドルとなった。本格的に964を補修すると10万ドル程度は必要であり、劣化状態の価格が完全補修状態の相場となったともいえる。